犬や猫にとって水は、人間と同じように生きるために不可欠なものです。水を適切に摂取できない状態が継続すると、脱水により体温調節機能が低下し、腎機能も低下、さらには重篤な体液バランスの崩壊を引き起こすリスクが高まります。
飼い主が犬や猫が「あまり最近水を飲まないなぁ」とちょっとした異常を発見した場合でも、決してそのままの状態にしておかず、迅速かつ多角的に原因を考え、対応する必要があります。
このページでは、専門的な知見に基づき、犬や猫が水を飲まない複数の具体的な原因を掘り下げ、それぞれの原因に応じた、効果的な改善策を客観的に解説しています。
1. 健康・病理的な観点から探る飲水拒否の原因と改善策
犬や猫が水を飲まなくなる最も重大な原因の一つは、基礎疾患の存在です。行動や環境に顕著な問題が見当たらない場合、まずこの獣医学的アプローチによる原因の特定が、ペットの健康を守る上で最も優先されます。
(1)原因1:基礎疾患の存在と飲水時の不快感
- 具体例
-
水の摂取量が急激に変化すること(特に多飲多尿からの急激な飲水拒否への転換)は、腎臓病や糖尿病といった代謝性疾患が進行しているサインである場合があります。
特に高齢の犬猫においては、慢性腎臓病(CKD)の罹患率が高く、病態の進行に伴い食欲不振や嘔吐が発生すると、二次的に水を飲むこと自体を回避し始めることが観察されます。
また、口腔疾患、特に重度の歯周病や口内炎が存在する場合、水に触れる刺激が痛みとなり、飲水行動を避ける原因となります。
水温や、硬水に多く含まれるミネラルが、炎症部位に刺激を与えている可能性も考慮しなければなりません。 - 改善策
-
動物病院での健康診断が最優先の対応です。獣医師に対し、直近の飲水量の変化、尿量、食欲の変化、体重の増減などの生活記録データを詳細に報告し、血液検査や尿検査を実施することが求められます。
もし腎臓疾患が確認された場合、食事療法と並行して、腎臓への負担を最小限に抑える水の選択が非常に重要になります。ここで一つの有効な選択肢として検討されるのが、ピュアウォーター(純水)です。
ピュアウォーターは、逆浸透膜(RO膜)などの高度なろ過システムを通じて、カルシウムやマグネシウムといったミネラルや、残留塩素などの不純物を極限まで除去した水です。
これにより、ミネラルが腎臓の糸球体に与える潜在的な負荷を懸念する場合に、純粋な水分補給源として検討することができます。デリケートな腎機能を持つ動物たちに対し、不純物のゼロ化は一つの安心材料になります。
口腔内の問題が原因の場合は、麻酔下での歯石除去や抜歯、炎症を抑える治療などを行い、痛みの解消後に飲水環境の改善を進めることが望ましいです。
(2)原因2:消化器系の不調による体液バランスの乱れ
- 具体例
-
激しい嘔吐や下痢を伴う急性胃腸炎などの場合、犬や猫は体力を消耗し、脱水症状を引き起こします。
この時期は、悪心のために水も食べ物も拒否してしまうことがあります。これは、本能的に胃腸を休ませようとする生体防御反応であるか、あるいは体液バランスが大きく乱れたために正常な飲水欲求が機能しなくなっている可能性を示しています。 - 改善策
-
嘔吐や下痢が続いている場合は、速やかに獣医師の指示を仰ぐべきです。重度の脱水が疑われる場合は、輸液療法(点滴)による電解質と水分の補給が最善の治療法となります。
症状が落ち着いた後、飲水を促す際は、純粋で清潔な水、すなわちピュアウォーターを少量ずつ提供し、胃腸に負担をかけないように配慮します。
ミネラルや不純物が少ない純水は、消化器系が弱っている状態でも刺激が少なく、水分補給を促しやすいという利点があります。
また、ピュアウォーターに少量の犬猫用電解質パウダーを混ぜて提供することで、体液に近い成分バランスを整えながら水分補給を促すことも効果的な手段です。
2. 環境・心理的な観点から探る飲水拒否の原因と改善策
病理的な原因が除外された場合、飼っている犬や猫が持つ水の嗜好性や、給水場所の環境、あるいは心理的なストレスが飲水を妨げている可能性が高くなります。この領域は、飼育環境の調整によって最も改善が見込める領域です。
(3) 原因3:水の品質、鮮度、そして不純物への嫌悪
- 具体例
-
犬や猫は人間よりもはるかに鋭敏な嗅覚と味覚を持っています。水道水に含まれる残留塩素(カルキ臭)や、水道管から溶け出した金属臭、さらには給水容器に付着したぬめりやバクテリアの臭いを嫌悪することがしばしば観察されます。
特に猫は、新鮮な水を好む本能的な習性があり、一晩放置された水や不潔な水は拒否する傾向が強いです。 - 改善策
-
水の鮮度と清潔さの徹底が必須です。
水の交換頻度: 最低でも朝晩2回は、給水ボウルの水を交換します。残留塩素が気になる場合は、汲み置きしてカルキを抜くか、市販の浄水器を通した水を使用します。
給水容器の洗浄: 毎日、食器用洗剤を使って給水容器を徹底的に洗浄し、**ぬめり(バイオフィルム)**の発生を防ぎます。
水の選択肢の検討: カルキ臭や不純物を極限まで排除したい場合の選択肢として、**ピュアウォーター(純水)**の活用が挙げられます。
ピュアウォーターは、ほぼH2Oのみで構成されているため、不快な臭いや味の原因となるミネラルや塩素が除去されています。
これにより、水そのものの美味しさ、すなわち純粋さが際立ち、ペットの高い嗜好性を満たしやすくなります。
ただし、ミネラルウォーターの中には硬度が高く、尿路結石の原因となるミネラルを多く含むものもあるため、水の選択は慎重に行う必要があります。
(4) 原因4:給水容器と設置場所の不適合

- 具体例
- 給水容器の素材や形状、設置場所は、動物の飲水行動に大きく影響します。
猫の場合、ヒゲがボウルの側面に当たることを嫌がる習性があります(ヒゲ疲れ)。深すぎるボウルや狭いボウルは敬遠されがちです。
犬の場合、プラスチック製の容器が持つ独特の臭いを嫌うことがあります。
設置場所が、トイレの近く、騒音のする家電の近く、あるいは他の犬や猫の縄張りのど真ん中である場合、安心感を持って水を飲むことが困難になります。警戒心が働き、飲水量が低下します。 - 改善策
-
複数個所への給水場所の設置と容器の変更を行います。
容器の素材と形状: 臭いがつきにくい陶器製やステンレス製の浅く広めのボウルに変更します。ヒゲの感触に敏感な猫には特に有効です。
自動給水器の活用: 流水を好む習性を持つ猫や一部の犬には、自動給水器(ファウンテン)が非常に有効です。流れる水は新鮮さを連想させ、好奇心を刺激して飲水を促します。
ただし、給水器内のフィルター交換やポンプの徹底洗浄を怠ると、バクテリアの温床となるため注意が必要です。
純水を使用することで、給水器内のミネラル由来の水垢やぬめりの発生を抑え、清潔さを保ちやすくなるという副次的な利点もあります。
設置場所: 静かで安心できる環境、例えば居住空間の隅、寝床の近く、食事場所とは少し離れた場所など、縄張り内でも安全が確保された隠れ家的な場所に給水場所を分散して設けます。
(5) 原因5:心理的なストレスと環境変化
- 具体例
- 引っ越し、新しい家族やペットの増加、分離不安など、環境変化や心理的なストレスは、犬や猫の食欲や飲水欲求を著しく低下させます。
特に猫は環境への依存度が高く、些細な変化でも警戒心から飲水行動を控えてしまうことがあります。多頭飼いの場合、優位な犬や猫が給水場所を縄張りとして独占し、他の犬や猫が遠慮して水を飲めない序列的な問題も発生し得ます。 - 改善策
- 安心できる飲水環境の提供とストレス軽減に努めます。
- a. 安全の確保: 飲水場所は、他の動物や人間の動きが死角に入りにくい場所、または壁際など背後に安心感がある場所に設けます。
- b. 多頭飼いへの対応: 給水場所を分散させ、縄張りが被らないようにします。犬と猫、あるいは優位と非優位の個体が同時にストレスなく水が飲める給水機会を設けます。
- c. ストレス軽減: フェロモン製剤(猫や犬の鎮静効果を持つもの)の使用を獣医師と相談したり、隠れ場所(ハイドアウェイ)を増やしたりして、環境ストレスを総合的に軽減します。
3. 食事から考える犬・猫の水分摂取の改善策
犬や猫が食事からどれだけの水分を摂取しているかは、飲水行動に大きく影響します。特に猫は、砂漠で進化した祖先の特性を受け継ぎ、喉の渇きを感じる閾値が高く、自発的な飲水量が少ない傾向にあるため、食事からの水分摂取が生命線となります。
(6)原因6:ドライフード主体で水分摂取が不足
- 具体例
-
ドライフード(カリカリ)は水分含有量が10%未満であり、必要な水分の大部分を飲水に頼らざるを得ません。
対してウェットフードや手作り食は水分含有量が70~80%と高く、これらを主体とする場合は、自然と飲水行動が少なくなります。
水を飲まないのは、食事から十分な水分を補給できている結果である可能性もありますが、ドライフードのみで飲水量が少ない場合は、慢性的な脱水のリスクが高まります。 - 改善策
-
食事に工夫を凝らし、水分摂取を強制的に促します。
ドライフードのふやかし: ドライフードにぬるま湯またはピュアウォーターをかけてふやかします。この際、臭いや不純物の影響を極力排除したい場合には、純水を使用することが、動物の嗅覚や嗜好性を刺激せず、食事から確実に水分を摂取させるための一助となります。
ウェットフードの活用: ドライフードにウェットフードを混ぜたり、完全にウェットフード主体の食事に切り替えたりします。
フレーバーウォーターの提供: 無塩の鶏肉や魚を茹でた茹で汁(冷ましたもの)、または動物用ミルクをごく少量ピュアウォーターに混ぜて、嗜好性の高いフレーバーウォーターとして提供します。
ただし、塩分や脂肪分の過剰摂取は病気の原因となるため、あくまで飲水を促すための工夫として、少量に留める必要があります。
4. 水の選択と総合的なアプローチで犬・猫は水を飲むようになる
犬や猫の健康管理を行う上で、水の品質を追求することの重要性は、客観的な事実として認識されています。
ピュアウォーター(純水)は、ミネラルをゼロ化しているため、ミネラルの過剰摂取による腎臓疾患や尿路結石のリスクを懸念する際の代替案として推奨されることがあります。
特に硬水に含まれるマグネシウムやカルシウムは、尿路結石(ストルバイト結石、シュウ酸カルシウム結石)の原因となり得ることから、結石の既往歴があるペットに対しては、不純物のない純粋な水分の提供が極めて重要な配慮の一つとして認識されています。
しかし、水道水であっても、新鮮さと清潔さ、そして塩素を抜くためのひと手間をかけるだけで、犬や猫が積極的に飲んでくれるようになるケースも多々あります。
重要なのは、純水に固執することではなく、動物の健康状態や嗜好性、生活環境に最も合った「最適な水」を冷静に判断し、提供することです。
結論:水を飲む習慣を確立するための客観的対応
ペットが水を飲まないという問題は、病気、環境ストレス、嗜好性のいずれかに起因する複雑な問題です。
飼い主は、動物の健やかな毎日をサポートするために、以下の三位一体の客観的な対応を実践することが求められます。
獣医学的アプローチ: 定期的な健康診断と、異常時の迅速な血液検査・尿検査。
水の品質と環境: 給水場所の清潔さの徹底、複数個所への設置、そして犬や猫の嗜好性と健康状態に合わせた最適な水の選択(水道水、浄水、ピュアウォーターなど)。
食事からのアプローチ: ドライフードのふやかしや、ウェットフードの活用による食事からの水分摂取の強化。
犬や猫が健全な体液バランスを維持できることは、彼らの生命維持と健康に直結します。
飼い主には、客観的な事実と、専門家が長年の経験から得た知識に基づき、動物の小さなサインを逃さず、適切なサポートを提供することが期待されます。
このプロセスは、飼い主が動物と生活する中で直面する重要な体験の一つであり、動物の健康に深く関わる経験となります。